映画の構造

エイリアン ディレクターズ・カット アルティメット・エディション [DVD]
エイリアンを見てからジェームズ・キャメロンエイリアン2のメイキングなんかを見ちゃったせいで、映画の構造について考えてしまった。キャメロンって脚本家出身なんだね。小説家の乙一氏が幻冬舎のPR誌に書いていた「プロットの作り方」を使って、映画のあらすじをまとめてみた。完全にネタバレなので、映画を未見の方は注意。

「エイリアン」1979年/米/117分
1章
A:「登場人物、舞台、世界観の説明」

巨大な宇宙貨物船ノストロモ号は男性5人女性2人のクルーを乗せている。地球へ帰る途中、彼らは他の宇宙船からのSOSを傍受し、救出のためにある惑星に着陸した。

a:「問題の発生」
宇宙船はすでに焼け焦げ生存者はいなかった。宇宙船の底の方を探りに行ったケインは、床一面に転がっている大きな卵状の物体を見つけた。その1個をのぞき見た彼は、突然飛びだした小さな生物に顔をふさがれてしまった。

2章
B:「発生した問題への対処」

ノストロモ号に連れ戻されたケインの顔の上には、生物が付着したままである。ダラスがナイフで強引に引き剥がすと酸の体液をまきちらし、生物は姿を消した。捜索の結果、乾燥した状態で潜んでいるのをリプリーが捕獲した。この生物を船外に棄てるという案は、科学者のアッシュによって反対される。結局、生物は保存されることになった。

b:「問題が広がりを見せ、深刻化する。それによって主人公が窮地に陥る」
ノストロモ号は惑星を離れ、ケインは意識を回復した。しかし食事中に彼は苦しみ出す。胸部からエイリアンが飛び出し、ケインは死んだ。船の燃料は1週間分しか残っていない。一刻も早く生物を捕まえなくてはならない。

3章
C:「広がった問題に翻弄される登場人物。登場人物の葛藤、苦しみ」

火焔放射器を持って捕獲に向かった船長のダラスも首をしめられて死んだ。疑問を感じたリプリーは、船のマザーコンピューターに質問した。解答は乗員の生命よりもエイリアンの捕獲を優先するというもの。その時、リプリーの背後にはアッシュが迫っていた。必死で抵抗するリプリーは、駆けつけたランバートとパーカーによって助けられ、アッシュは死んだ。科学担当の彼はアンドロイドで、エイリアンを地球に運ぶ任務にあった。

c:「問題解決に向かって最後の決意をする主人公」
生き残った4人は小型シャトルにエイリアンを追い込み、シャトルごと宇宙の果てに飛ばすという作戦を立てる。しかし、次々に襲われていき、リプリーと1匹の猫だけが残された。リプリーはノストロモ号を自爆させシャトルで逃げ出すこととする。

4章
D:「問題解決への行動」

リプリーシャトルに乗り込み、ノストロモ号からの脱出に成功した。しかし、安全だと思われたシャトルにはエイリアンが潜んでいた。宇宙服を着たリプリーの手によってエイリアンは宇宙空間に放り出されるのだった。

こうしてみると、さすがに名作。プロットに無駄が無い。凄いのは2時間のこの映画で、物語の変曲点となるa、b、c(小文字)の事件が30分おきに起こっていること。見る側のペース配分が計算されている。たしかにちょうどいい間隔でショッキングなシーンが出てくるから飽きさせない。
同様にテレビで先日見た「バイオハザード」も分析してみる。閉鎖空間からの脱出劇という枠の中では同じ構造を持つはずだ。

バイオハザード」2002年/米独英/101分
1章
A:「登場人物、舞台、世界観の説明」

アンブレラ・コーポレーションの地下秘密研究所ハイヴ。侵入者がウィルスの瓶を持ち出し、その一本を投げ割る。ウィルスは気体となってダクトをめぐる。緊急事態を察知したコンピュータが施設をロックし、注水と毒ガスによって施設内の人々を殺戮していく。
記憶を失いバスルームで目覚めるアリス。館に特殊部隊が押し入りアリスに報告を求める。同時に屋敷に潜んでいたマットという男が捉えられた。アリスと拘束されたマットは、館の下に隠された地下鉄道に乗せられる。車内にはまたしても記憶喪失のスペンサーという男がいる。スペンサーに触れたアリスはこの男と一緒の記憶を一瞬取り戻す。アリスとスペンサーはハイヴの防衛要員であり、緊急事態に際し神経ガスで眠らされたのだと部隊長から説明がある。男性6人女性2人の集団で鉄道は進む。

a:「問題の発生」
アリス、マット、スペンサーを道連れに、特殊部隊はハイヴに進入する。彼らの目的は事態の調査とメインコンピュータの停止である。冒頭の映像で、すでに発生した問題の内容については説明されている。コンピュータによってロックされ、殺戮が行われたハイヴを慎重に進む一行。

2章
B:「発生した問題への対処」

コンピュータの仕掛けた罠により、特殊部隊のうちリーダーを含めた3人は殺される。それでも部隊の一人、カプランがコンピュータのパスワードを解いて停止に成功する。

b:「問題が広がりを見せ、深刻化する。それによって主人公が窮地に陥る」
コンピュータの停止に伴い、ハイヴ内の主動力はダウンし予備電源に切り替わる。ロックが解かれ、閉じ込められていた死体がアンデッドとなって主人公達に襲いかかる。おびただしいアンデッドに仲間のJ.D.が飲み込まれ、アリスもはぐれてしまう。なぜか体が覚えている体術や銃器を用いて、一人戦いを強いられるアリス。

3章
C:「広がった問題に翻弄される登場人物。登場人物の葛藤、苦しみ」

ハイヴに勤めていた妹、リサのアンデッドに襲われるマット。そこに偶然アリスが駆けつけ、彼を救う。マットはハイヴの犯罪を世に明かすため妹を潜入させていたのだと明かす。切れ切れの記憶の断片に自分もこの件に関わっていたことを予感し動揺するアリス。レイン、カプラン、スペンサーと合流したアリスとマットは、ハイヴへの進入扉が自動的に閉まるまでに地上へ戻らなければならないことを知る。

c:「問題解決に向かって最後の決意をする主人公」
イムリミットまでに地上に戻るには、コンピュータを再起動し脱出ルートを聞き出すしかない。しかしコンピュータは、アンデッド化の原因であるウィルスの拡散を防ぐためハイヴを閉鎖したと明かし協力しない。コンピュータを沈黙させ、自力での脱出を試みる主人公達。

4章
D:「問題解決への行動」

アンデッドの襲撃によりカプランを見捨てても脱出口を探す主人公たち。ラボまでたどり着いたアリスは抗ウィルス剤の存在を思い出す。同時にスペンサーも自分がウィルスを撒き散らした真犯人だと思い出す。アリスらをラボに閉じ込め一人で逃げ出すスペンサーだが、巨大なモンスターによって殺害される。死んだと思われていたカプランに助けられ、地上への鉄道に乗り込むアリスたち。しかし彼らもモンスターに襲われ、カプランはあえなく最期を迎える。抗ウィルス剤も効かずアンデッド化したレインと巨大モンスターをなんとか倒し、地上へ生還したアリスとマットを出迎えたのは、アンブレラ・コーポレーションの研究者たちだった。拘束されたアリスが次に目覚めた時に見たのは、アンデッドによって破壊し尽くされた死の世界だった。

こうしてみると、主人公たちを引っ張る事件がぶれていることが判る。メインコンピュータ、アンデッド、脱出へのタイムリミットと三つもある。また主人公のアリスがフィジカルに強すぎるので、窮地に陥った時の危機感に乏しい。記憶喪失という設定だから仕方ない部分もあるけど、伏線の張り方も唐突。最期の巨大モンスターは蛇足そのものだしね。うーん。勉強になる。今日の「アニメ夜話」で大地監督が言った「アニメは動きだ!」の伝でいくと、バイオハザードはカッコイイアクションで見せる映画であって、決してストーリーの整合性は求められてないんだね。