衛星映画劇場

エイリアン3 [DVD]
BSアニメ夜話」と前後するけど、今夜の衛星映画劇場は「エイリアン3」。デビッド・フィンチャーの監督デビュー作。「ファイト・クラブ」はマイベストに入れる僕だけど、「エイリアン3」は正直つらい作品。シナリオがギリギリまで決定されなかったとか、編集の際にかなり話が変更されてるとかあるみたいだけどね*1。それはともかく、だんだん手慣れてきた「乙一メソッド」で分析。

エイリアン3」1992年/米/115分
1章
A:「登場人物、舞台、世界観の説明」

宇宙を漂流する軍事用輸送船スラコ号の非常救命艇に事故が発生した。リプリーたちは冷凍睡眠カプセルごとEEV(非常脱出機)で射出され、惑星フィオリーナ161に不時着した。惑星には労働矯正施設しかなく、染色体異常とされる犯罪者が服役していた。不時着現場で唯一の生存者であるリプリーを救出する囚人たち。EEVの中に潜んでいたフェイスハガーを囚人の飼い犬が見つけ近づいていく。医務室で意識を取り戻したリプリーは、ニュートとヒックスが死んだことを知る。医師のクレメンスにニュートの死体を検死してもらったが異常はなかった。

a:「問題の発生」
(25分経過)エイリアンに寄生されていることを懸念して、鉛工場の溶鉱炉で2人の死体は火葬される。その最中、工場の片隅で犬の体を突き破って4本足のエイリアンが誕生した。

2章
B:「発生した問題への対処」

囚人たちと同じ様に丸坊主にするリプリー。宗教的カリスマを持つディロンを中心とした囚人たちの結束は固い。シャフトで4本足のエイリアンによる最初の犠牲者マーフィーが出る。EEVの記録を見るため、鉄屑置場までアンドロイドのビショップを探しに行ったリプリーは男たちに襲われるが、ディロンの助けもあって身を守ることができた。一方エイリアンは地下道で次々と囚人たちを襲う。ビショップから記録を聞き出しエイリアンの存在を確信したリプリーだったが、所長のハリーは取り合わない。規律が乱れるのを恐れた所長によって、リプリーは医務室に軟禁される。

b:「問題が広がりを見せ、深刻化する。それによって主人公が窮地に陥る」
(57分経過)医務室のリプリーの眼前で、クレメンスがエイリアンに殺害される。間髪を入れず、食堂で所長が襲われる。エイリアンは天井のダクトを伝って移動していた。

3章
C:「広がった問題に翻弄される登場人物。登場人物の葛藤、苦しみ」

武器のない囚人たちはリプリーを中心に怪物に戦いを挑む。密閉できる核処理施設にエイリアンを閉じ込める作戦を立てる。が、事故により爆発事故が発生し作戦は失敗。10名が命を落とす。身体の異常を自覚したリプリーは、EEVの体内透視装置を使い、エイリアンクィーンの胎児に寄生されていたのを知る。エイリアンに接近し、自分は殺されないことを確信したリプリーは、ディロンに体内に胎児がいることを打ち明ける。

c:「問題解決に向かって最後の決意をする主人公」
(86分経過)施設の通路にエイリアンを誘い込み、溶鉱炉で倒すという計画を囚人達に話すディロンとリプリー。会社の医務班が惑星に急行しているが、彼らの目的はエイリアンの捕獲であって囚人達の救出ではない。

4章
D:「問題解決への行動」

多くの犠牲者を出しながらもエイリアンを溶鉱炉に誘い込み、鉛を浴びせることに成功した。それでも倒れないエイリアンにリプリーが水を浴びせ、ようやくエイリアンはは砕け散った。駆けつけた会社の医務班は、リプリーの体内から胎児を取り出しエイリアンを殺すと約束する。しかし胎児もろともリプリー溶鉱炉の中に身を投じるのだった。

それなりにシナリオは整っている。一作目のシナリオの変曲点は『a:エイリアンの寄生、b:エイリアンの誕生、c:退治の決意』という流れだったのに対して、『a:エイリアンの誕生、b:エイリアンの襲撃、c:退治の決意』という流れ。さっさとエイリアンが出てきてしまっている上に、その後の襲撃のパターンもひねりが無いので一作目を知っている観客から見れば退屈に感じる。エイリアンクィーンの胎児にリプリーが寄生されていることがこのシナリオの肝なのだが、それが明かされるのが遅いし効果的な用いられ方もされていない*2
フィンチャー特有の陰鬱な雰囲気は悪くない。しかし、登場人物が全員丸坊主で銃器もメカも出てこないとなると、地味な印象になるのは仕方ないところか。前作で強烈な印象を残したサブキャラクターたちを覚えている観客にとっては、今作は主人公まで含めてほぼ全滅というのも暗澹たる気持ちになる原因。まあこれがこの映画の持ち味だし、エイリアンシリーズの壮絶な幕引きということであれば、まさにこれがふさわしいのである。そういう意味では続編が作られてしまったのも不幸なことだった。
エイリアン視点のカメラワークとか、爆発物を超微速度撮影する表現などはこの後のSFX映画に影響を与えていると思う。後半のエイリアンと囚人の追いかけっこは、もっと悪趣味な笑いが取れるシチュエーションなのにサラッと流してしまっているのが残念。

*1:そのへんの事情はこのウィリアム・ギブソンの『エイリアン3』のページに詳しい。このシナリオだとヒックスもニュートも生きてるのか。

*2:医務室でリプリーに顔を寄せるエイリアンのカットは素晴らしいのだけれど。