衛星映画劇場

2001年宇宙の旅 [DVD]
昨晩は「2001年宇宙の旅」。SF映画の名作中の名作として名高い作品だが、僕は通して見るのは初めて。たまにテレビでやるのを流し見して、「PARTY7」のキャプテンバナナのデザインの元ネタは「2001年」の黄色い宇宙服かなあ、とかぼんやり思ってた程度。例によってストップウォッチで時間を見ながら、箇条書きであらすじと感想を書いていった。難解だという世評をよく聞くので、乙一メソッドで構造を解析できるかどうかわからないがとにかくやってみる。アーサー・C・クラークの原作(ノヴェライズだったっけ?)も読んでないんだよなあ……。

2001年宇宙の旅」1968年/米/141分
1章
A:「登場人物、舞台、世界観の説明」

(0分)「人類の夜明け」のテロップ。類人猿たちの前にモノリスがあらわれ、その影響を受けた一匹は骨のハンマーを道具として扱うことを覚え群れのリーダーとなる。(18分)2001年。類人猿の子孫である人類は道具を進化させ宇宙へ進出した。(24分)月へ向かうフロイド博士は、乗り換えのため宇宙ステーションに立ち寄る。そこで出会った友人から、彼は月で何が起きているのか尋ねられる。フロイドは伝染病の噂をはぐらかす。(39分)月に到着したフロイドは会議に参加する。伝染病は世間を欺くブラフであり、科学者達はクレーターで発見されたモノリスについて調査している。モノリスは人工物で400万年前に埋められたことだけが判っている。

a:「問題の発生」
(49分)発掘されたモノリスに近づくフロイドと研究者たち。太古の類人猿と同じようにモノリスに触れるフロイド。モノリスの前で研究者たちが記念写真を撮ろうとした瞬間、モノリスから木星へ向けて強力な電磁波が発信された。

2章
B:「発生した問題への対処」

(53分)「木星探査計画」のテロップ。18ヵ月後、木星探査船ディスカバリー号。(53分)BBC放送のディスカバリー号への取材で、この船には2人のクルーと冷凍睡眠状態の3人の科学者に加え、6人目のクルーとして人工知能HAL9000が搭乗している事がわかる。(66分)HALはこの探査計画について、月で人工物が発見されたという噂と絡めてある結論を得ている。ボウマン船長との会話の途中で、ユニットAE-35の故障を告げるHAL。(72分)船外作業用ポッドで宇宙に出るプール副官。(78分)しかしユニットは故障していなかった。管制センターのHAL9000の双生である人工知能は、ディスカバリー号のHALが判断を誤ったと答えた。HALは間違いの原因があるとすれば人間の側のミスにあると言う。

b:「問題が広がりを見せ、深刻化する。それによって主人公が窮地に陥る」
(83分)HALに聞こえない様に船外作業ポッドの中で会話をするプールとボウマン。2人はHALが故障していると考えている。その場合はHALの回路を切り、船を地上の管制センター制御にするプランを立てる。HALは2人の会話内容を唇の動きから読んでいた。

3章
C:「広がった問題に翻弄される登場人物。登場人物の葛藤、苦しみ」

(85分)「休憩」のテロップ。ユニットを戻すべく船外活動用ポッドで出るプール。ポッドからも出て宇宙服で作業を行う。(89分)HALに操作されたポッドによって、プールの命綱が切れる。手動でポッドを操作し救出に向かうボウマン。(96分)一方、無人の船内では生命維持装置にコンピュータ故障の表示。冷凍睡眠中の博士達は生命機能を停止する。(98分)プールの遺体を回収し、ポッドで戻ってきたボウマン船長に対し、HALはエアロックを開けない。ミッション達成のためにHALは人間を殺し、自らの存続を選んだ。死ぬ危険性は高いが、ボウマンは船外から非常エアロックを開けることを試みる。

c:「問題解決に向かって最後の決意をする主人公」
(105分)捨て身でポッドを爆破しディスカバリー号船内に戻ってきたボウマン。HALの論理記憶中枢に乗り込み、回路を切断する。低減する意識の中で、HALは「デイヴ、私は怖い」と繰り返す。(112分)回路切断の瞬間、木星到着時にクルーに向けて見せられるはずだった録画ビデオが再生される。18か月前の月面の事件が明かされ、地球外生命体の調査がこの木星探査計画の使命であることが伝えられる。この情報をHALは知っていた。

4章
D:「問題解決への行動」

(114分)「木星と無限のかなた」のテロップ。木星軌道上を漂う巨大なモノリス木星に到着したディスカバリー号。(118分)ポッドに乗ったボウマンはモノリスに近づいてゆく。スリットスキャンで表現された光の洪水のような映像(時空間の跳躍のイメージ)。死体のようなボウマンの表情がインサートされる。幻想的な映像で以下のようなイメージが映し出される。銀河系の中心、太陽系の誕生、原始地球、生命の誕生。それらを見つめるボウマンの瞳。(128分)突然ポッドがモダンな高級ホテルのような部屋の中に出現する。赤い宇宙服を着て呆然と室内をさまようボウマン。(131分)食卓に人影を認めるボウマン。それは黒いガウンを羽織り歳を重ねた自分だった。主客が入れ替わり食事を続けるボウマン。(134分)室内のベッドには老人となったボウマンが白い服を着て寝ている。彼を見つめる壮年のボウマン。さらに主客が入れ替わり壮年のボウマンは消え、年老いたボウマンの眼前にモノリスが現れる。次の瞬間ベッドには光り輝く胎児があらわれる。胎児は宇宙空間を漂い、地球を見つめている。

昨夜はメモを取るだけで疲れてしまって、この文章をまとめているのは翌日。劇中に挿入されるテロップは「人類の夜明け」「木星探査計画」「木星と無限のかなた」の三つ。これに85分時点で入る「休憩」のテロップも加えて作品は4パートに分けられている。驚いたことに乙一メソッドで見事に構造を整理することができた。「2001年宇宙の旅」は映像でテーマを語る作品であり、主人公の活躍を描くエンターティメント作品ではない。それでも映像でストーリーを展開させドラマを構成し、観客に満足を与えることは可能であることを確認できた。テーマが主人公ではなくて映像に託されているから、ちょっととっつきづらいのか。
具体的に一つ一つのパートを分析してみる。まずAパートで超自然の存在、モノリスに観客は興味をひきつけられる。変曲点aでモノリスがなにごとか人類に対してアクションを起こしたことが示唆される。映像を注意深く見ていくと、類人猿のリーダーがモノリスの上に見上げる月と同じアングルで、月面のモノリスから見える地球が映される。
Bパートで、“地球外生命体の存在”という問題に対して人類の取った対処である「木星探査計画」が描かれる。太古の類人猿も優れたリーダーがモノリスから霊感を得たように、現代人もまた訓練を積んだ優秀な科学者と宇宙飛行士をモノリスに“謁見”させる。しかし、そこには人類の作り出した“道具”の頂点、人工知能HAL9000が6人目のクルーとして同乗していた。ボウマン船長とプール副官はこの使命をまだ知らされていないが、HALは知的存在としてモノリスに“謁見”することの意味を自ら悟っていた(と思える発言をする)。変曲点bでHALの犯したミスにより彼は回路を切られそうになり、これが人類対人工知能の進化闘争の引き金となる。うがった見方をすると、HALは人類への攻撃を“正当防衛”化するために自ら故障したとも取れる。
Cパートで人類代表であるクルーは、人工知能にほとんど殺される。しかしボウマン船長のすぐれた能力により、人類は種族間闘争に勝利する。変曲点cでHALが「私は怖い」と言うが、これは人類の祖先が他の原人のグループを絶滅させたように、HALは自らの同族である人工知能の未来を恐れていたのかもしれない(これは考えすぎかも)。
Dパートでモノリスへの“謁見”に成功したボウマンは個体としての生涯を一瞬にして体験する。死と再生を経て、人類は宇宙に進出した生物としてふさわしい姿に進化する。自分のゆりかごであった地球を見つめる新人類。彼のまなざしはこれから宇宙に向けられることを予感させる。
とまあ、こんな感じなんでしょうね。制作年より後に生まれて、2004年の今見ているから簡単に理解できるけど、こんなの35年も前に見せられたらワケわかんなくもなるわ。映像に語らせるというスタイルが理解の妨げになったと思われるけど、名作として数十年を生き延びてきた作品にはしっかりとしたストーリーと構成が必ずあると確信できた。アートアニメなどでよくあるけど、映像に寄りかかるだけでなにも伝わらない作品もある。映像で映画を作るのは、おそろしく頭の良い人じゃないと成功しない技だと実感。