広島国際アニメーションフェスティバル五日目(23日MON)

このエントリーを書いているのはフェスティバル閉幕翌日の24日です。昨日の記憶が薄れないうちに。睡眠導入剤を飲んでしまったので、睡魔と戦いつつ。
第10回広島国際アニメーションフェスティバルもこれで最終日。全日参加したのは今回が初めて。さすがに体がしんどいです。今日の午前中はどこに行ってもいいやという気分で、中ホールの「平和のためのアニメーション2」を。大ホールの上映のシルヴァン・ショメの長編最新作も気になるけど、これはDVDかなにかで今後見られそうな気がする。ふぎふぎ本舗の「とおせんぼ」が地雷を扱ったショッキングな作品だった。もう一つ、第一次世界大戦のヴェルダンの戦いを描いた「1916」も戦争のすさまじさをビジュアルでグイグイ押し付けてくる。このヴェルダンだけでフランス・イギリス連合国とドイツの双方合わせて100万人の戦死者を出したというからものすごい。太平洋戦争だって日米民間人まで合わせて210万人。ヴェルダンの戦いが「肉挽き器」と呼ばれたというのもむべなるかな。
昼からは小ホールの「広島フェスティバル受賞作品集4」では未見だった「バランス」と「ファーザー・アンド・ドーター」が良かった。前回は滞在のタイミングが悪くて見られなかった「ファーザー・アンド・ドーター」は、前回のグランプリにして観客賞をとったのもわかる。父を思う娘の気持ちと、アニメーションだからこそ表現できた残酷な時間の流れが切ない。午後はもう一つ。ビル・プリンプトンの「ヘア・ハイ」。50年代のアメリカの高校を舞台にした、過剰に馬鹿馬鹿しくも、妙に美しい愛の描かれる作品。公式サイトで若干のサンプルムービーが見られる様子。
ここで明日仕事のある大阪と静岡の勤め人は会場を後にする。残って閉会式と表彰式まで見届けるのは僕と後輩の学生の二人。すでに一日遅れの情報だけど、一応書いておく。詳細は下記のリンクを参照いただきたい。
で、感想だが「頭山」のグランプリは本命だったので意外性は無かった。「学生として第一回に参加したヒロシマでグランプリをいただいて……」という、山村監督の言葉に思わずもらい泣き。観客賞の「サウス・オブ・ザ・ノース」も問題なし。一番観客に受けてたし、言葉による説明がなかったのも日本人中心の会場には良かった。「ルイーズ」や「ストーミー・ナイト」も非常に完成度が高く受賞は納得。いかんせん英語のセリフが多すぎて、日本人観客は置いてけぼりになっていた。というか、これは僕の英語力の問題か(笑)。やはり落語を音声として用いて、非日本語圏の審査員からグランプリに推される「頭山」は凄い。デビュー賞については、どこまでがデビュー作にあたるのかというあたりが不明だけど、若手作家というくくりであるなら「鬼」の受賞は妥当。もっと凄い映像を見てみたい。国際審査員特別賞と優秀賞に選ばれた作品も、やはりコンペで見ていた中でも楽しさ、面白さで頭ひとつ抜けていたものばかり。
パンフレットにある国際選考委員長クレア・キットソンの言葉によると、キャラクター性やSF、アクションに力を入れた作品が増える一方で、社会的メッセージ性の希薄化を憂えている。確かに授賞式後の入賞作品上映でも強いメッセージ性を感じる作品はそう多くなかった。しかし僕は楽しんだ後、世界の見方をほんの少し変えてくれた今回の作品たちに拍手を送りたい。
また、閉会式で大会ディレクターの木下小夜子氏も言っていたことだが、節目の第十回大会でグランプリと新人賞を日本人が獲ったというのも嬉しいことだ。これは第一回大会の手塚治虫、篠塚勉ペア以来の快挙だという。大会の継続については色々不穏な噂も耳にするが、秋葉広島市長から「ヒロシマの心」を世界に伝えるための重要なイベントと認識しているとの言葉もあり、ぜひ十五回、二十回と続けていただきたい。

グランプリ 賞金¥1,000,000
「頭山」 山村浩二 (日本)

ヒロシマ 賞金¥1,000,000
「ルイーズ」 アニタ・ルボー (カナダ)

デビュー賞 賞金¥500,000
「鬼」 細川晋 (日本)

木下蓮三賞 賞金¥250,000
「ライアン」 クリス・ランドレ (カナダ)

観客賞 賞金¥100,000
「サウス・オブ・ザ・ノース」 アンドレイ・ソコロフ (ロシア)

国際審査委員特別賞
「ノーティス」 ルロフ・ヴァン・デル・ベル (オランダ)
「ロム・サンズ・オンブル」 ジョルジュ・シュヴィツゲベル (カナダ)
「ストーミー・ナイト」 ミシェル・ルミュ (カナダ)
「ループ・プール」 鮎澤 大輝 (日本)
「ノー・リミッツ」 ハイディ・ヴィドリンガー、アニヤ・バイユ、マックス・シトルツェンバーグ (ドイツ)
「フィッシュ・ネバー・スリープ」 ガエル・デニス (イギリス)

優秀賞
「ティクハヤ・イストリア」 アレクセイ・ドゥミン (ロシア)
「ニブルス」 クリス・ヒントン (アメリカ)
「ザ・トラムNo.9・ゴーズ・オン」 ステパン・コワル (ウクライナ)
「イススティンクト」 ラオ・ハイドメッツ (エストニア)
「ピコール」 フランソワ・ベルタン (フランス)
「ガード・ドッグ」 ビル・プリンプトン (アメリカ)
「プロ・ラコフ」 ヴァレンティン・オルシュヴァング (ロシア)

受賞作品の静止画イメージと、講評については以下のURLに。http://www.urban.ne.jp/home/hiroanim/j/shinchaku/shinchaku7.html