広島国際アニメーションフェスティバル四日目(22日SAN)

このエントリーを書いているのは24日の火曜日。「頭山」がグランプリを獲った事は、すでに報道されている通り。北海道新聞にまで写真入りで報道されてたのには驚いた。当日の行動の資料として、メモを見ながら書いておく。
日曜日は午後から会場入り。午前中はネットカフェからこの日記の前回の更新をしていたよ(笑)。13時から商業作品のPRの場であるネクサスポイント会場で「岩窟王」*1のプロモーションを見る。前田真宏監督は会場に見えられなかったが、ビデオメールをメディアファクトリーのプロデューサーが持参。制作途中の映像なども交え、プロデューサー氏が逐次説明をするというスタイルだった。現在公式サイトなどで見ることのできる以外の映像も見ることができた。原作はもちろんアレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」。前田監督は学生時代にアルフレッド・ベスターの「虎よ、虎よ!」をアニメーション化しようと試みたが、権利関係の事情から諦めたらしい。つまり今回の「岩窟王」は、「モンテ・クリスト伯」の本歌取りである「虎よ、虎よ!」と同じ土俵に立った、前田監督の再挑戦ということになる。プロデューサー氏は原作についてフランスの新撰組みたいなもの、という比喩をしていた。古典を現代にあわせて新解釈というのはよく用いられる手法なだけに、どこまで独自性を出せるかが勝負になる。「虎よ、虎よ!」は“ワイドスクリーン・バロック”の傑作とされる一方、このアニメーション版「岩窟王」は“パンク・オペラ”をキーワードとしているらしい。あまり耳慣れない言葉だが、より先鋭的でファッショナブルという感じなのだろうか。キャラクターの衣服や髪にテクスチャーが貼られており、3DCGで造形された幻想的な背景美術とあいまって「哀しみのベラドンナ」を髣髴とさせる鮮烈な映像が仕上がっている。これを24話の連続テレビアニメとして製作中というのだから恐れ入る。テレビ朝日系火曜深夜にて今秋から放送予定とのこと。
15時からはフレーム・イン会場にてポール・ブッシュのQ&Aに。参加していた保田克史氏のアニメーション教育についての質問から、ちょっと「しゃべり場」っぽい雰囲気になったのにハラハラ(笑)。スクラッチアニメで鮮やかな色彩を出す手法について理解を深められたのは良かった。ポール氏は歳を重ねるごとに仕事や創作活動の上で冒険をすることへの恐れがなくなったきた、とおっしゃっていたことが印象的だった。斯くありたいもの。
その後、「久里洋二11PM特集Part2」を少し見る。ソフト化は無理と本人が断言するだけあって、当時のCMや音楽、雑誌や新聞の切抜きなど、なんでもかんでもミクチャー状態。それが完璧なリズムでアニメーションになっている。最高。晩は「コンペティション4」。これで全69作品が出揃うことになる。

  1. 「ヴンデルヴェルク」 (ドイツ) ミハイル・ジーバー:命を持った機械の鳥を作ってしまったがゆえに、発明家は自らの孤独さをより深く知ることになる。手書きの丁寧なアニメーションに巧みに3DCGのダイナミックな映像が取り込まれている。☆☆☆
  2. 「ライアン」 (カナダ) クリス・ランドレス:かつて傑作を物にしたアニメーターへのインタビュー。感情の変化を3DCGで縦横無尽に表現している。そのアイディアの豊富さに脱帽。☆☆☆☆☆
  3. 「ザ・ウォー・キルド・ザ・キングズ・ドッグ」 (カナダ) ザベル・コテ:まるでテレビアニメの「日本昔話」のようなやさしい画面ながら、争いの悲惨さを描いている。ただ、表現をオブラートに包みすぎた嫌いも。☆☆☆
  4. 「ル・カルネ」 (フランス) アントニー・メナール、オリヴィエ・レスコー、ポール・リンズリー、ガエル・ベレン、メディ・レファー:30秒の作画習作といった趣き。カッコイイがメッセージ、ストーリーともに希薄。☆☆
  5. 「アバウト・ア・ガール...」 (ロシア) レナ・チェルノワ:お留守番の少女の冒険。ポップジャズとのシンクロがとても気持ち良い。☆☆☆☆
  6. 「グランダッズ・ハニー」 (ラトビア) ウラディミール・レショフ:孤独な老人の寂しさを描いているが、散漫な印象。☆☆
  7. 「ウェディング・エスプレッソ」 (イギリス) サンドラ・エンズビー:サッパリしたイラストが良く動く。挙式を控えた女性の空想をユーモラスに描く。この軽さはCM向きかも。☆☆☆
  8. アコーディオン」 (カナダ) クルノワイユ・ミシェルつけペンで描いたような力のある線が、ノイズにのってイメージが展開される。どこか引っかかる作品。☆☆
  9. 「頭山」 (日本) 山村 浩二アカデミー賞候補ともなった有名作。フィルムで観るのは初めて。細部まで堪能できた。素晴らしい。☆☆☆☆☆
  10. 「フィッシュ・ネヴァー・スリープ」 (イギリス) ガエル・デニ築地市場近くに住み、寿司屋を経営しているナオコが主人公。イギリス人から築地市場を見ると、まるでグロテスクな魚の屠殺場。日本人が魚市場に持っている粋で活気のあるイメージというのは伝わりがたいのかもしれない。主人公の女性のストレスフルな生活をスタイリッシュに描いたビジュアルはカッコイイ。☆☆☆
  11. 「ラ・スリシエール」 (フランス) フランソワ・ベネディティ:亀と鼠と猫と犬の騙し合い。繰り返されるカットに意味があるが、少々展開がクドイ。☆☆
  12. 「ザ・ドッグ・フー・ワズ・ア・キャット・インサイド」 (イギリス) シリ・メルキオール:イギリス版ど根性ガエル。☆☆☆
  13. 「ル・トレゾル・ドゥ・テタール・サレ」 (フランス) アマンディーヌ・フルドン:間抜けな海賊を主人公としたギャグアニメ。サメが可愛い。☆☆☆
  14. 「イーティング・フォ・トゥー」 (イギリス) スティーヴ・スミス:海の家でフィッシュアンドチップスを出すんだな、イギリスでは……。☆☆
  15. 「イワン−ホワン」 (ロシア) コンスタンティン・アルレヒエフ、ステパン・ビリュコフ:男の生き様、二態。☆☆☆
  16. 「ミノタウロマキア、迷宮のパブロ・ピカソ」 (スペイン) ホアン・パブロ・エチェヴェリ・シアンシオ:目に力のあるクレイアニメゲルニカを立体化すると、まるで諸星大二郎描くところの妖怪のようだ。「妖怪ハンター」の「生命の木」をクレイアニメで誰かやらんだろうか……。☆☆☆
  17. 「プロ・ラコフ」 (ロシア) ヴァレンティン・オルシュヴァングシャガールのようなやさしい印象。物語がちゃんとロシアの魔法昔話の構造を取っているあたりはさすが。☆☆☆☆
  18. 「ホーム」 (日本) 青木 純、恵土 敦、小柳 祐介、八山 健二:勢いのあるパペットアニメーション。もう少しアクションに爽快感が欲しい。☆☆☆

*1:公式サイト:http://www.gankutsuou.com/