ヒトデなしの人生

午前中にうたた寝をして、身体の疲れの方も取れたようだ。そのかわり妙な夢を見た。

 僕はひどく変わった姿で生まれてきたこどもであるらしい。同じ症状のこどもたちが集められている施設へ、週に一度通っている。自分は視点だけの存在であるので自らの姿かたちはわからない。しかし、他のこどもを見る限り、顔の周りに5本の突起が伸びたヒトデのような姿である。バスケットボールくらいの大きさしかないが、会話や突起を使った歩行は可能である。滑らかな七宝焼きのような肌の中心にレリーフのように浮かぶ顔はそれなりに均整が取れており、中でも歌を得意とする美少女は世間でも有名であるらしかった。テレビ局の取材に答え、顔を紅潮させる彼女をただ美しいと思った。
 もっとも僕自身はその世界の美的基準からもひどくはずれた外見をしているらしく、目と口を除いて全身を可塑性のあるプラスチックのような素材で覆われている。これ無しでは体を維持することもできないらしい。まともに歩行することもままならないので、いつも箱に入れられて家族が持ち運んでくれている。
 あるとき僕は自分の死を悟った。そもそもこの体は循環器系に負担があるらしい。いつもの様に週に一度の施設通いの帰り道、自家用車を運転していた父がいつもと違う道を通ってみようと言い出す。自宅は海岸沿いにある。どうやら最近埋め立てられた雑草だらけの野原を抜けて、近道が出来るらしい。ああ、これで少しでも早く帰れれば、家で死ぬことができるかな……と思っているうちに体から意識が離れた。僕は自家用車の上に同じスピードでとどまり、生まれて初めて高い視線で世界を眺めることができた。あたりはどこまでも続くような枯れかけたススキの野原で、遠く雲の切れ間から青空が覗き、小さく見える海と高層ビルの外壁がきらきらと輝いていた。はじめて“素肌”で外界の風を感じて僕は死んだ。
 一瞬の暗転も無く意識は続き、体を持たない僕の視点は数年前の過去にさかのぼる。そこはショッピングセンターである。幼い自分がはしゃいでいる様子が見える。はじめて見る自分の姿は角張ったスフィンクスのようだった。手足のような突起は皆無で底面は切り取られたように平らである。表情に乏しい顔面はやや誇張気味の笑顔で固定されている。哀しい顔だなと思ったところで意識が途切れた。

そして目覚めた。