雪国にて歩むの考

ステップ
昨日はアルバイトで一日家を空けていた。北海道は十一月に入って二度目の大雪であった。ながく東京に居住していた筆者は、歩くのも難儀に感じた。それでも交通機関が普通に動いているのはさすがは北の都である。東京ではこうはいかない。
道行く人を観察していると、歩行方法が二つあることに気付く。「踏みしめ型」と「小走り型」である。踏みしめ型の道行く様はさながらゴジラの如し、である。一歩一歩着実に歩を進めている。ある程度年配の方に多く見られる型であるが、面白いことに女子学生の集団でもこの方式をとっている場合が多い。おしゃべりをしながらろくに路面を見ずに歩くには、この踏みしめ型が適しているのであろう。また、中年以上の女性の中には買い物カートに重心をあずけて、常に二点支持で移動する、より進化した形態も見られる。カートをゴジラの尻尾に喩えるなら、これこそが人類としてもっとも完成された「ゴジラ式踏みしめ型」歩行であろう。
一方「小走り型」の歩行は非常にスピーディーである。小刻みに両足を用い、わだちや水溜りを華麗にジャンプする。できるだけ他の歩行者との衝突を避けるために、荷物や鞄を胸に抱きかかえ、上半身を軽くかがめているのも特徴である。その移動時のフォルムから、時代劇で見られる忍者走りを想起するのは筆者ばかりではあるまい。この歩行方法を採用している者は圧倒的にOLが多い。特に制服姿でヒールの高い靴を履いている場合は100%と言ってよい。つまり彼女達はヒールが雪に刺さり動きが損なわれるのを回避すべく爪先立ちでの高速移動を余儀なくされているのだ。先述の「ゴジラ式踏みしめ型」のような安定感を望むべくも無いこの「忍者式(いや、くのいち式、か)小走り型」では、少ない接地面を強く蹴ることによってグリップ力を増さしめ、またそのスピードから万一のスリップ時にも慣性の法則で体勢を大きく損なうことはないのである。
以上から雪に対する人類の戦いは、ことに女性の歩行方法に進化を促していたことがわかった。無心に雪と戯れる少女時代。護送船団よろしく集団で雪道を踏み均していく女子学生時代。一転、華麗なくのいちに転身を遂げるOL時代。そしてカートやソリに自らの人生の重みをも預けるが如き熟年時代。一貫して無作法にがに股で歩くしか能のない男性諸君は、雪国の女性の苦闘の歴史を尊敬の念を持って称えるべきであろう。