星を追う子ども

新海誠監督の長編アニメ映画、最新作です。
T・ジョイ系(バルト9とか)とかTOHOシネマズ系で先週からかかっていて、これまでミニシアター系でしか上映されていなかったのと比べると、新海ブランドも板についてきた感じ。
お客さんの半分くらいが親子連れだったのも意外。ジュブナイル映画としてそれなりに告知はしてたのかな。パッと見、今回はキャラもジブリ風だし、ファミリー受けはいいかもね。 以下ネタバレにつき「続きを読む」で表示。
さて、映画の感想ですが、自分には二時間近い尺が少々退屈でした。 映像と音楽は美しく注視する価値のあるものでしたが、 お話の展開が凡庸でキャラが「生きていない」と感じられました。
行動が終始一貫していて、一番感情移入できるのが、30歳はとうに過ぎているであろう、成人男性のモリサキだけだというのは、ポスターや予告編でミスリードしてると言われても仕方ないのではと言うくらい。
ほかのサブキャラはともかく、主人公である小学6年生のアスナの動機付けができてないんですよね。せっかく冒頭で日常生活の描写を丹念に積み上げているのだから、唯一の肉親である母親との関係を異世界への旅立ちの契機に絡ませるべきなのです。ここは本当に惜しい。「星を追う子ども」というタイトルも、見終わってみるとアガルタから地上を羨望していた少年、シュンの事のようでもあるし。
地下世界アガルタへの門が開かれるところや、地下世界と地上世界の抗争の歴史が語られるところなどは、オカルトマニアとしてはホクホクモノでしたが、正直誰得なんだろうという気も。産休の代理教師として登場したはずのモリサキが、自宅を訪ねてきたアスナに地下世界について滔々と語り出すのも良い意味で可笑しかったです。井上和彦がまたイイ声であててるしなあ。
ほしのこえ」の時といい「雲の向こう」の時といい、 新海監督はスケールの大きな物語を描く際に、 わりと「既製品」の物語を借用するのに躊躇が無い傾向が見られます。 その悪い面が大きく出てしまったかなという感じです。
ストーリーそのものはジュブナイル・ファンタジーとしてはわりとありきたりだし、そもそもイザナギオルフェウス型の神話を下敷きにしている以上、そこは王道の展開で行くのはいいのですが、そこかしこにどこかで見たようなシーンがあるのは興を削がれます。
このあたり、新海誠という作家の資質の問題なのかも知れません。こうした演出のオリジナリティにこだわりすぎて、新奇ではあるけれどもつまらないモノを作る作家もいます。新海監督にそうした枷をはめることは、角を矯めて牛を殺す、ということになるのかもしれません。
キャラクターの心情を繊細な映像演出で描くことにかけては傑出している監督なのですから、 「彼女と彼女の猫」や「秒速5センチメートル」の方向で、 複数の人間の心情を描ききることができれば傑作をモノにできるのでは…… というのが、私の勝手な新海監督に対する希望的観測です。
SFやファンタジーのような、外に向けた大きな物語を紡ぎ出すストーリーテラーではないことはそろそろ見えてきているのですから、私小説的な人間の内面を描いたストーリーでじっくり腰を据えたものが見たいです。