「黄昏人の王国」 菊地秀行 東京書籍 ISBN:4487796148
たそがれびとのおうこく、と読む。2000年の秋の刊行なので今更のレビューだが、今日読んだので仕方が無い。しかもその初出はさらに遡り、収録の7篇中4篇は1986年に発表されたものだ。ざっと20年前。作中に高校の番長なんかが出てきたりして、会話の言い回しもノスタルジーを感じる。しかしこの本が郷愁をよび起すのは決して古びたせいではないだろう。作者が自家薬篭中の物とするところのヴァンパイアストーリーを軸にして、少女向けの小説誌「Cobalt」に掲載されたがゆえの叙情的な作品が収められている。巻末の日下三蔵氏による解説にもあるが、読後菊地秀行の初期の作品を思い出す人も多いだろう。エロスとバイオレンスの、ではなく、リリカルでロマンティックな気配の作品群。ローティーンのころ菊地秀行の「風の名はアムネジア」や「エイリアンサマー」でジュブナイル小説の手引きを受けた僕としては、いとおしく懐かしい友人に再会したような読後感を味わった。