「出張はラビリンス」角川書店 都築由浩 ISBN:404427603X

角川スニーカー文庫、五月の新刊の一冊。人類が外宇宙に進出し、星ごと殖民するような時代が舞台。とある惑星で異星生物学を教える主人公がインディ・ジョーンズばりの活躍をする……という一見おもしろげな設定。イラストはこないだ読んだ「銃姫」と同じくエナミカツミ*1格闘ゲームのオフィシャルイラストみたいな、アニメ絵なんだけど奥行きを感じさせるタッチでこれは良い。
で、小説の感想。一言でいうなら一度読めば十分。読んでる間そろそろおもしろくなるか、もうすぐか、と読んでいるうちにあっけなく終劇。結局なにも残らなかったなあという感じ。こんなとこまでハリウッド映画っぽくしなくてもいいのに。SFとしてもライトノベルとしてもどっちつかずで欲求不満が残る。文章も読ませるし、構成力もなかなかの物だと思うが、キャラクターが類型的すぎるのが致命的か。インディ・ジョーンズのパターンをなぞるのはかまわないが、登場人物たちに生きている感じが乏しい。立場や動機はしっかり書かれているのだけれど共感に至らないというか。女子大生のヒロインも天然ボケってだけでキャラとしては弱いしなあ。
じゃあ、ハードSFとして読めばいいかと思えば、これもなかなか厳しい。未開惑星の環境アセスメントのために異星生物学者が派遣されるという出だしはなかなか読ませるし、その利権争いのために複数の勢力が争うという構成にも問題は無い。しかし、肝心の惑星の自然やら遺跡やら(タイトルどおりラビリンスへの潜入行が主な舞台となる)のガジェットがイマイチ魅力的に感じられない。もうこれはなんというかセンスの問題なのかもしれない。これまでライトノベルしか読んでない中学生が、初めて読むSF的位置付けの本としてはお勧めできる。