「とらぶるういんどうず」に見る可能性

その出来の良さで話題のFLASHアニメーション「とらぶるういんどうず」*1。ノリの良い楽曲(美少女ゲームの挿入曲らしいが出典知らず)にのせて、歌詞をもじったテロップと二次元裏@ふたば☆ちゃんねる*2で自然発生的に誕生したキャラクター「OSたん」たちがフィーチャーされている*3。このFLASHムービーがブレイクした原因の一つが画面をクリックすることで生ずるさまざまな分岐や隠し要素。詳細なフローチャートまで作成されていて目をみはる*4
これを見て以前「Quartett!」の体験版をプレイした時に抱いた感想を思い起こした。小説的な文章をマウスの左クリックで区切って読ませる一般的なアドベンチャーゲームとは異なり、コマ割りされた画面に登場人物のフキダシがポップアップすることで表現される、フローティングフレームディレクターシステムの可能性について論じたものだ。

僕はフキダシの入った自主制作アニメーションの企画を考えていたことがあって、FFDシステムをはじめて見たときにはAVG側からこういう発想が出てきたか、と思ったものだ。アニメーション側の視点からこのシステムを見ると、重層的にコマを割って見せる面白さはあるけれど(ガンダムの画面分割をもっと進歩させたみたいなものだ)、一つのカットごとのカット割りのダイナミズムは失われていて勿体無いと感じる。現在のシステムではマウスの左クリックはテキスト(フキダシとコマの進行)を進める役割と、要所で提示される分岐で選択肢を選ぶ役割しか担っていない。このマウスクリックを積極的にゲーム進行に介入する手段として用いることが出来れば、アニメーションには無いゲームとしてのインタラクティブな面白さを提示することが出来るのではないか。たとえば画面上に表示されているフキダシをクリックすると「心の中のセリフ」を表示するとか、カットの奥に居る人物をクリックするとその人物のアップのコマが表示されて、細かい表情を知ることが出来、シナリオの進行もその人物寄りの物が優先されるといったことが考えられる。
http://d.hatena.ne.jp/hissa/20040229#p2より

今度はアニメ表現の側からインタラクティブ性を開拓する試みが提示されたといえる。実際に「とらぶるういんどうず」の画面をクリックするとおわかりいただけると思うが、130秒に満たないムービーの中に驚くほど多くのギミックが隠されている。分岐の選択に時間の猶予が与えられているAVGとは異なり、常に走りつづけている映像の中で、分岐のクリックポイントを押すタイミングは非情にシビアである。何度もムービーをループさせ無心にクリックしているうちに、あたかも「覚えゲー」のシューティングゲームを攻略しているようなハイテンションを感じることだろう。
Quartett!」はその映像を読むかのごときプレイスタイルから、一つのルートでエンディングまで到達するのに二、三時間もあれば十分である。全てのルートをコンプリートするのに六時間という報告もある。これを指してAVGとしてはボリューム不足だとする意見が公式BBS等*5で多く見られる。しかしこれをインタラクティブなアニメーションと考えると、少なくとも二時間以上の尋常ではない長さの大作と言うこともできる。たとえば三〇分に満たない長さでエンディングに到達するとしても、インタラクティブな選択肢の総尺は十時間あるというような映像作品があったなら画期的なものとなりうる。その場合、単純に選択肢を選ばせるという形ではなく(「とらぶるういんどうず」のように)決められたカット内でのクリック数がカウントされるとか、フラグを立てた上で二分の一の確率で出る映像があるなどアクション要素、ギャンブル要素を付加することでゲーム性をより高めることが必須であるだろう。
上記の僕の夢想に対して、「Quartett!」も「とらぶるういんどうず」も過渡期的段階にある。しかしその進む先でいつか交点が生じるのではないかと思うのだ。これまで映像作品はマスに向けて同じ内容のパッケージを届けることが前提とされてきた。しかし、一人PCのモニターに向かって映像を消費するというスタイルが確立されつつある現在、短いながらもインタラクティブな操作で「発見」が可能な映像作品に商業的価値が認められつつあると思うのである。

*1:http://heika-love.cool.ne.jp/troubled_windows.html FLASHファイル(7.6MB)

*2:ふたば☆ちゃんねる http://www.2chan.net/

*3:まったくもって余談だが「出演」の意で「フィーチャー[feature]」を用いるのは和製英語的用法なのかと思っていたら、ちゃんと動詞としての第一義なのな。英和辞典でfeature creatureというおもしろい成句も見つけた。ソフトウェアの設計で凝りすぎるばかりに実用性を犠牲にする人を指すスラング。自分でスタジオを作ったりしたら使いたいな。あとみんなフューチャーと混同しがち。

*4:「しおから」に保管されたフローチャート http://siokara.dynup.net/sio001/sio/sa1439.jpg

*5:http://www.littlewitch.co.jp/ ここから「ネタバレBBS」へ