夢から覚めきらず金縛り状態で目が覚める。児童誘拐事件を追う立場にいる僕は、誘拐後に偶然撮影された犯人が逃走に使用したクルマの写りこんだ写真を入手する。後部座席に誘拐された少女の姿がわずかに写っているのだ。写真が有効な物証として働き、すぐに犯人は逮捕される。ところが犯人が供述を始めたところ、その写真を撮影された時点では少女は殺害され埋められていたのだ。驚いて写真を見返すと、クルマのボディの下や遠景の立ち木の間などに無数の人影が写り込んでいる事に気がつく。そのショックで目が覚めたと思ったら体が動かない。夢の続きなのか現実なのかも判然としない。ただ、顔の上に覆いかぶさっている毛布の向こうに最前までの写真の存在を感じる。殺害された少女の無念を晴らすと心で何度も念じている内に金縛りが解けた。毛布の上には昨晩読んでいた「蟲忍」の文庫本が乗っていた。夢など覚めてしまえばその恐怖は溶けてしまうが、苦い後味はしばらく残る。(08:00)