「イノセンス(INNOCENCE)」 2004 日本 プロダクションI.G

hissa2004-03-08

歌舞伎町まで出向き、新宿オスカーで観てきた。平日の午後4時の回で客の入りは6割といったところ。カップルや学生のグループも目立つが、一人で来たマニア層が中心。なぜか挙動の怪しい客が多く、正直ウザイ(ごめんなさい同属嫌悪です。でもどうでもいいシーンで頻繁に笑ったり、上映中なんども荷物をがさがさ探るのはやめて……)。新宿というロケーションは落ち着いて観るには失敗だったかもしれない。パンフレットは監督やスタッフへのインタビューが中心。キャラクター紹介と用語解説があるので、攻殻機動隊(前作の映画&原作漫画)を未見の人は事前に購入して読んでおくと良いかもしれない。ネタバレは無い。以下に1回目の視聴での感想を記しておく。こじつけや曲解を含むので、「イノセンス」を未見でニュートラルな意識で映画を観たいという方は注意されたい。(28:00)
ちょっと意味の飛躍している箇所に、言葉を追加した。(3/9 13:40)

とにかく特筆すべきは映り込みの表現だ。アンドロイドの虹彩に、自動車のボディに、バトーの部屋のトースターに、床に窓に海に、執拗に映り込みが描かれ、動き、掻き消える。映り込みの作画は手描きのアニメーションでは気が狂いそうになる労力を要するけれど、ここはデジタル技術の大幅な導入によってクリアされている。パトレイバー2でも飛来する対地ミサイルのシーカー(弾頭先端の赤外線センサーなどが収められている部分)に、迫るベイブリッジの姿が映り込むという印象的なカットがあった。押井監督が演出としてこだわる部分を、ようやく自在に絵に落とすことができるようになったということなのだろう。義体の製造工程が3DCGで描かれるオープニングでは、浮かび上がっていく義体が水面に映った自らの姿に口づけをする描写がある。僕はこれを作中でも言及される人間の似姿としての人形、鏡に映った人間のイメージを喚起するための表現と見た。「映り込む」ということは「視線」を意識することだ。鏡としての人形を意識するとき、その視線の実体はどこにあるのか? 無垢な魂を持ってしまった人形と、人形として生きる人間たちにとってその問いは切実な響きを持つ。草薙素子は身体の殻を脱ぎ捨て、事実上不死の存在として独りで生きていくことを選択した。太古に人類がそうであったように、あるいは動物がそうであるように、巨大な一枚鏡としての世界と同一化することで、世界をそのままあるように見る視線を手に入れた。まだその孤独に耐えられないバトーは、命の殻を実感するために犬と一緒に生活をしている。人間は遺伝子の表現形として身体を(生殖によって)複製し、文明を手に入れてからは表現形の延長として道具を住居を経済活動を環境の改変を世界を覆う電脳ネットを、そして身体の似姿として人形を作り出してきた。人間のこうした行いを「業(カルマ)」であるとし、身体を脱ぎ捨て「解脱」した素子と対比させることで、いのちあるもの全てを包摂する倫理観の存在を示唆するところでこの作品は終わる。

えーと、あとはヲタクな着眼ポイントを。

  • 映り込みで言えばクルマの前部座席に並んで座るバトーとトグサのカットが何度か出てくるんだけど、このとき窓の外の灯りによって窓ガラスのホコリが浮かび上がる様が表現されている。よくここまで細かい光を絵に反映させたもの。
  • バトーが自室で飲む犬印のビールは「紅い眼鏡」の犬印のカップラーメンと同じメーカーかい。
  • バトーが最初にハッキングされる、ドッグフードを買いに行った食料品店のシーン。缶詰やら瓶やらが射撃によって飛散する。これは押井監督が原作を担当した漫画「とどのつまり」でアニメーターである主人公が回想する「バクハツする乾物屋の内部をサイボーグ戦士がモッブで全力疾走する全作画のカット」のセルフパロディ。ホントに作画(つうかCGだけど)させちゃったのね。
  • 登場人物がたびたび口にする膨大な引用からなるセリフ。これって電脳でネットから状況にあう言葉を検索して口にしてるんだという説明がおかしい。googleで検索して引用した文章を自分の言葉のようにコピペしながらチャットしてるようなものか。ちょっとカコワルイ(w。でも上の↑感想文だってググって来た知識を織り交ぜて書いてるしねえ。むしろ自然か。
  • 択捉で行われてる中国の旧正月みたいなお祭り。アンドロイドを火に投じる様子が「どんど焼き」みたいと思ったのは僕だけ?
  • ストーリーのベースになった攻殻機動隊6話「ROBOT RONDE」では暴走するアンドロイドはグラマラスなボディのトムリアンデ型。これならセクサロイドという設定も納得だが、イノセンスではムネペチャ球体関節のハダリ型に。うーん顧客の趣味が特殊なのか高踏的なのか。

(参考)はてなダイアリー集合体における映画『イノセンス』感想リンク http://d.hatena.ne.jp/hone/20040307#1078667781