「雲のむこう、約束の場所」2004年/日/91分

一時間半の作品なのにひどく長く感じる。原因ははっきりしていて、回想による演出の濫用である。冒頭の社会人となった主人公ヒロキ、中学二年生の冬から三年生の初夏にかけてのシーン、三年後それぞれの道へ分かれた主人公達の姿、そしてクライマックスとなる「塔」へのアプローチ。これらが中学三年生の夏に結んだ「約束」に向ける視線から語られている。主人公三人は約束にとらわれたまま現在を生きてはいない。それが破られ映画の中の時間が動き出すのはエンドロール間際、約束の場所である塔へ向けて主人公達が行動を開始してからとなる。観客はそれまでの一時間以上いつ舞台が本当に動き出すのか待たされるのである。これではたまらない。
とまあ、一時間半の劇場アニメとしては非常に難があるのだが、それ以上に見るべきものはある。その映像の瑞々しさ、郷愁を誘う光景をさりげなく配置する観察眼、奇抜ではないのに新鮮なレイアウト、主人公ヒロキのセリフに込められた心情。この作品はストーリーの帰結やSF的なガジェットの整合性を気にしながら見てしまうとむしろ損だ。映像と音楽と台詞の情感に身を任せて見られる二度目の鑑賞から真に楽しめるように思う。
こまかいところでは中学生時代のキャラクター達の顔が、カメラがひくと目がテンになるのが可愛かった。あと水野理紗さん演じる女性研究者マキのキャラクターに好感を持った。この人が一番等身大の人間としてバランスが取れていたようで。蝦夷製作所でケーキを食べるシーンなど、この映画で一番ホッとするところだった。
(参考1) 私的「雲のむこう、約束の場所」:世界背景や台詞について詳細な考察が。
(参考2) 雲のむこう、約束の場所 感想リンク:感想リンクはここでほぼ万全?