「スピリチュアル・マシーン」翔泳社 レイ・カーツワイル ISBN:4798100226

スピリチュアル・マシーン―コンピュータに魂が宿るとき
Kurzweilといえば高級シンセの代名詞だったそうで。著者はシンセサイザー“K250”の考案者。MIT出身、アメリカ有数の発明家、起業家にして彼のテクノロジー予測は良く当たるということでも有名なレイ・カーツワイルの1999年に出版された本を読んだ。400ページの結構な分量の本だが平易な語り口と豊富な事例紹介が中心で読みやすい。学者の書いた論文ではなく、起業家の企画書だと思えばむべなるかな。宇宙の進化とコンピュータの指数関数的発達を論じた冒頭はちょっとトンデモ系だが、人工知能ナノテクノロジーを駆使した未来予測はなかなか明晰だ。もっとも僕らにしてみれば「攻殻機動隊」や「銃夢」で慣れ親しんだ世界なわけでそれほど新味はなかったりする。この本を読めば漫画を読んでもやもやしていた部分の幾ばくかはスッキリするかも。でもその用途としては参考文献が記されてないので減点。2099年には機械の知性と人間の知性は区別しがたいものになっているという予測は刺激的。非侵襲的な脳スキャンによって生体由来の人格は、コンピュータで形成された地球規模のネットなどのテクノロジー上のものに置き換えられるという。たった100年でそこまで行くかとも思うが、確かにこれから100年はこれまで100年よりも加速度はつくのだろうな。その世界では知性体に事実上寿命は無くなる。ビル・ゲイツがその時点でも世界一の金持ちだという話には笑ったが。笑いつつも老いや死に対する妄執がテクノロジーと結びつくと奇怪なことになりはしないかと不安になった。テクノロジーの指数関数的な進歩を根拠に楽観的な未来像を描いている本書だが、心や意識の問題はきれいに避けている。そのあたりに興味を持っている人にも消化不良の感を与えるかもしれない。