「蠅の王(LORD OF THE FLIES)」ウィリアム・ゴールディング

集英社ギャラリー[世界の文学]の5巻目、イギリスIVから。高校生のころ読んだはずだが、抄訳だったかもと思い先日図書館で借りてきた。この全集は山本容子の挿画による化粧箱が美しいのだが、図書館の蔵書は箱がはずされ外がビニールシートでコーティングされてしまっていて本としての質感はがっかりなものとなってしまっている。箱は捨ててるのかなあ。1954年に発表されたこの作品は、戦火を避けて疎開するイギリスの少年達の乗る飛行機が絶海の孤島に不時着したという状況から始まる。彼らの乗る飛行機は攻撃されたのだ。これって第二次世界大戦中の設定なのかと思っていたんだけど、再読するにどうも近未来SFであるらしい。こども達が主役のこの物語で、最年長の主人公、ラーフは12歳と数カ月とある。こどもらしさは抜け出たが少年というにはまだ早く、しかし将来ボクサーにでもなれそうな体躯と邪気の微塵も無い口もとを持つという魅力的な描写がなされている。映画化もされていたと思うけど、どんな子役が演じていたのだろう。主要な登場人物は7名(うち2名は双子で性格の書き分けはされていない)。幼児期のこども達が「ちびっ子たち(リトランズ)」と一緒くたにされているのも面白い。古今、少年だけでサバイバルをする物語はあまたある。やはり「漂流教室」と「ドラゴンヘッド」を思い出しながら読んでしまった。どんどん胸苦しくなる展開は岩原裕二の絵で苦悶の表情が描かれているイメージ。これでどんな雰囲気の作品かわかるだろうか。闇が得体の知れない獣として少年達の心に浸透していくが、一人サイモンという少年が「蠅の王」を目の当たりにする。ここから物語ははっきりとシフトを変え少年達の血が流れ出す。緻密で鮮やかな珊瑚礁の島の風景には決して乾く事の無い鮮血が噴き出している。(23:20)