破風と切妻屋根

それはかなり広くて、ぎっしりと建物の密集している町であったが、人の住んでいる気配は少しも見えなかった。煙突の先から煙ひとつ立ちのぼらず、また高い尖塔が三つ。海側の水平線を背景にしてぬうっとぼんやり黒い影を浮き上がらせていた。そのうち一つは、上のところが崩れ落ちており、ほかの二つの塔には、前に時計の文字盤が付いていたにちがいない穴がぽっかりと黒い口だけをあけていた。へこんだ切妻破風の屋根や、とがった切妻がぎっしりと密集しているところは、いかにもはっきりと、虫に喰い荒らされたような感じがあったし、いまこの坂を走り降りて町に近づいて行くにつれ、町の屋根は、大部分、落ちくぼんでいることがわかった。
H・P・ラヴクラフトインスマウスの影」より

海外の小説を読んでいて建物の描写でよく出くわすのがこの破風と切妻屋根。かやぶきとかトタン屋根、木造モルタル二階建て……ならすぐにイメージが湧くけど、切妻とか言われても何のことだろうと思っていた。で、調べてみた。

切妻造り[きりづまづくり]
都会の町屋や山間の板屋根に多い造り。頂点に棟の稜線が1本通り、両側に屋根面が流れる形。切妻造りの雨が流れ落ちる方向を平(ひら)といい、三角形の切り口の方を妻(つま)という。本来は平が家の正面であるが、妻を正面とする形も各地にある。出入口が平側にあるものを平入り、妻側にあるものを妻入りという。
破風[はふ]
入母屋造りや切妻造りの妻側の上部(三角形の部分)をいう。板張りや漆喰で内部を保護するとともに、装飾をこらす。江戸時代には、地方によって民家の破風飾りを禁じたり、破風そのものを禁じたりした。なお、屋根窓を破風と呼ぶことがある。
民家建築小事典より

切妻屋根
ようはこういう形の屋根のことらしい。破風の説明で破風飾りと言う言葉が出ているが、これは城や寺社仏閣に見られるものを思い出せばいい。破風のことは英語で"gable"という。あっ!『赤毛のアン*1グリーンゲイブルズは緑切妻屋根の家と言う意味か。
相国寺 グリーンゲイブルズ

*1:原題は"Anne of Green Gables"