東のウタヒメと千年の魔法

というわけで、映画のハシゴを終えて帰宅しました。アニメ映画ばかりを続けて見るという、ある意味縛りの入った企画。映画サービスデーだから、たまにはこんなのもいいよね。以下、簡単に感想など。


東のエデン 劇場版I The King of Eden

劇場版“I”とあるように、前後編の第一作。テレビシリーズ最終回の世界から半年後、行方不明となった滝沢朗を追って、単身ニューヨークに渡る森美咲……という導入で、ストーリーは完全に繋がっている。ネットワーク越しに咲をバックアップする、ネットベンチャー東のエデン株式会社”の面々についても改めての説明は無く、これは事前知識が無いと物語に入り込むのは難しいだろう。
一方、テレビシリーズのファンにとっては、これは紛う事なき「東のエデン」の続編。これまで存在だけが語られその正体のつかめなかった一部のセレソンの活動が明かされたりと謎解きの楽しみは尽きない。またしても記憶を消去した滝沢朗は、咲のことも自身がセレソンとして半年前に起こした行動の結果も覚えていないが、その行動的な性格は変わっていない。安心して物語を委ねられる。まあ、ネガティブな見方をすると、また同じパターンの繰り返しか? という言い方もできるのだけど……。
82分の尺を使って、物語がいよいよドライブし始めると言うところでエンドロール。後編へ続く、という作りは仕方ないか。それだけに当初の公開予定だった、2010年1月9日という後編公開の日程が3月までずれ込んだのは惜しい。一か月強のインターバルしか置かず、ほぼ続けて視聴するのが制作サイドの本来の意図だっただろうからだ。ネットでの評判なども、この劇場版第一作についてはあまり芳しくなく、ファン層の期待を高めるという戦略において少々見誤りがあったように思う。
あとは個人的に楽しめた点など。まず、今作の最大功労賞モノのキャラクターは人工知能コンシェルジュジュイス”だろう。玉川紗己子が演じ分けるこのAIは、各セレソンとの携帯電話越しの会話でしか登場しないが、その個々の対応に「個性」が縦横に発揮されていて、重要なコミックリリーフとして機能している。特にセレソンNo.6に対する切れ気味の応対が最高(笑)。「とりあえず申請してみますけどー」とか、お前はどこの高飛車なOLだ。玉川さんといえば攻殻機動隊タチコマの声もあてているわけで、ジュイスの発展系がタチコマのAI……? とか妄想は膨らむ。黒羽社長とジュイスNo.11の信頼関係は泣ける。自身が破壊されるかもしれない黒羽のオーダーを「受理しました」と応えるジュイス。自己犠牲を尊しとする人工知能の話には弱い。
そんなわけで、この映画単体ではいろいろ難しい点もあるけど、東のエデンファンとしては万難を排して後編も見に行く所存。未見の方は、かならずテレビシリーズをDVD/BDで復習してから映画館に向かうのだ!


劇場版マクロスF 虚空歌姫 イツワリノウタヒメ

続けて観たのは、こちらもテレビシリーズから劇場版アニメーションへと展開したマクロスフロンティア。劇場の客層は一気に低年齢・オタク層な雰囲気になっていて内心苦笑。いい歳のおっさんが観るにはそろそろ抵抗を感じてきた……。
基本はテレビシリーズの再構成に新作カットを多数追加という体裁。以前目にした情報では、2時間の尺の内、新作カットは7割にのぼるとか。昨今のテレビアニメはハイビジョンで制作されているから、映画館でかけても映像で見劣りしないから凄いね。もっとも、新作カットでも正直微妙なレベルの作画も目についたけど……。
一方、ストーリーについてはテレビシリーズをなぞりながらも徹底的に見直しがされていて、各キャラクターの性格付けなど非常にわかりやすくなっていた。特に主人公アルトは行動にいたるまでの心理が丁寧に描写されており、キャラクターとして成長した描かれ方をされていた。片方のヒロイン、シェリルもアルトとの交流の中で十分かわいらしさが伝わってきて良かった(というか性的な意味でサービスシーンが過剰だったんじゃないかと思うほど)。一方、二人に比べるとランカの扱いがぞんざいだった気もする。最初からランカはアルトと知り合いで好意を寄せているという設定になっているので、観ていて感情移入するシーンが少ない。ここはアイドルとしての知名度が飛躍的に上がるであろう後編での描写に期待かな。
一応、劇場版独自の新展開として新たな謎や設定が披露されているのだが、テレビシリーズを最後まで見た目からはさほど新奇性は感じない。伏線は張るものの今回の劇場版では一切回収されない。しかし、テレビシリーズとは異なるであろう後編への興味を持続させるようなフックとしての役割もあまり期待されていないようだ(ストーリーの裏側で暗躍する面々については、非常に割り切った演出がされている)。これはマクロスフロンティアという作品自体が、初代マクロス本歌取りをしているという構造的なものの影響もあるのだろう。主人公達の基本的な関係性が変わるほどの変更はないようだ。観客の興味をそれなりに惹きつけながら、安心して観ていられるという意味では適切な匙加減だったのではないだろうか。もっとも、これで完全新作とされる後編で思い切った人間関係の変更が行われたならば、それはそれで嬉しい誤算となるのだが。
ところでマクロスシリーズの華と言えば、ヒロインのステージシーンと派手なバトルアクションな訳だが、ここは申し分ない。劇場用に強化された音響設計と相まって、日本アニメ最高レベルの映像を堪能できる。シェリルの新曲が多数追加されているのも魅力なのだが、なんといっても「ライオン」を熱唱するシェリルとランカ、ヒロイン二人の競演がやはり熱い。歌と戦闘の融合はマクロスの十八番。ここに最高の盛り上がりを持ってきた演出は成功していると思われる。
大きな戦闘を切り抜けたところで今回の映画は終わっていることもあり、鑑賞後の満足感は高い。続く後編の公開は2010年秋とアナウンスされているので、下手にヒキを作ってモヤモヤした印象を残すよりも、一度この映画で区切って後編はまた1年かけてプロモーションしようという流れなのかもしれない。公開してからの観客動員の数字も良いようだし、後編にも期待したい。


マイマイ新子と千年の魔法

今日最後に観たのはこの作品。前二作に比べるとメディアでの露出は少なく、お世辞にも話題になっているとは言えない。しかし「アリーテ姫」の片渕須直監督が、「サマーウォーズ」のマッドハウスと組んで劇場用アニメを作っているという噂はコアなアニメファンを中心に聞こえてきてはいた。どうも作画アニメになりそうだ……とか、公開前に露出したキャラクターデザインを見てかなり地味目の画面になりそうだとか。北海道ではたった一館の上映、しかも一日に二回のローテーション。これは早々に観に行かないと上映が終わってしまうかもしれないと思い、早々に観に行くことにした。
で、観終わった感想なのだが……これが一言では言い表せない。とにかく黙って観に行ってくれ! という想いでいっぱいだ。こんな映画には久々に出会った。なにせ、上映が始まってものの10分ほどで、物語的にはまだ何も盛り上がっていないのに涙が溢れて仕方がなかった。こんな感情の動きをあらわすすべを僕は知らない。
タイトルやクセのないキャラクターの印象から、子供向けの教育的な内容や、わかりやすい物語を想起するかもしれない。ところが、そうした思い込みはあっさりと打ち砕かれる。小学三年生の女の子、新子を語り手に据えたこの作品はなかなかに複雑で、それでいてするりと観る者の心に忍び込んでしまうような浸透力を持っている。大人はすぐ忘れがちなのだが、共に生活している家族にも隣人にも、もちろん自分自身にも子供時代が必ずある。「マイマイ新子」のユニークな点は、この子供時代の視点をぶれることなく一貫して保ち続けた描写に徹していると言うことだ。この試みが完成度の高い作画と説得力のある背景美術、スキャット管弦楽によるエモーショナルな音楽に支えられた時、劇中の昭和30年という時代を超えて、いつか子供だったすべての大人たちに子供の心を思い起こさせる。
思えば僕はとてもよく泣く子供だった。小学校低学年のころは、何かにつけて泣いていて、教室に泣かなかった日の表を貼り出されていたくらいだ。親や社会に守られて子供は生きていると思われがちだが、子供にとっても世界は理不尽で大人の都合で簡単に崩れ落ちる。そんな、子供時代には当たり前だったことを、この映画は正面切って描いている。主人公の新子は、しっかりとした家族に恵まれ、生き方と思想の導き手とも言える祖父によって、当時でも稀なほど前向きで想像力に富んだ魂を育んでいる。そうした光の部分がまばゆいほど、子供の力ではどうしようない大人の事情や現実の厳しさが際だつ。それでも懸命に生きようとする姿に、観客は知らず感情移入してしまうことだろう。
また、この作品で特徴的な描写の一つに、舞台である昭和30年の山口県防府市の世界にオーバーラップするように、想像の1000年前の平安時代が重なるというものがある。アニメーションならではの融通無碍な描き方で、1000年前にこの地にあった国衙(こくが)の街並みが立ち現れ、そこに住まうお姫様の物語が同時に進行する。こうした想像力を担保する、日本という国の歴史に感謝すると共に、アニメーションという表現手法のすばらしさを実感させるシーンだ。この描写を成功させただけでも、この作品の価値は評価されるべきだろう。
あとは例によって自分の心にひっかかった点など。この作品、抑えめの色調で構成されていて決して派手な印象は無いのだけれど、ひどく心に残るのが水の描写の美しさ。大麦畑を縦横に走る用水路や、小川の水が清冽に描かれている。水中にカメラを移動させたカットも多用されていて、水の描き方にはかなりこだわったと思われる。
登場する子供たちは個性的で、特に主人公の新子と都会から来た転校生の貴伊子は対照的ながらも非常にチャーミングに描かれている。それだけでも十分楽しめるが、思いがけないところに伏兵が。新子のお母さん、幼い容姿でかわいい……(笑)。誰が声をあてているのかと思ったら、本上まなみ。いや、これはずるいよ!