『クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』講談社ノベルス 西尾維新 ISBN:4061822330

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)
読了。リーダビリティは並じゃない。お茶を淹れに階下のキッチンまで行き、カップを手に階段を上がってくる最中も読んでいた。僕は推理小説をほとんど読んだことがないので*1、この小説が推理小説としてどうなのかというのはよくわからない。普通に良くできた推理小説ってのは、良くできたSFのアイディアが明かされるときに驚きを覚えるように、トリックが明かされた瞬間にハッとするものなのだろうか。そうだとしたら、この小説はちょっと変だ。
(以下ネタバレ含む)
第一、タイトルの『クビキリサイクル』でトリックを明かしているようなものだ。推理することを楽しみに読んでいた読者はあきれるんじゃないかという点に、むしろハラハラした。トリックでアッと言わせるのでなければ、主人公や探偵の葛藤や動機が描かれているのかといえばそれも違う。トリックも登場人物も犯行の動機も死体ですらも同等の意味を持つカードとして扱われている印象を受けた。一度並べたカードをシャッフルして、もう一度上から並べていくと最初の順番になってるマジックのようだ。タネも仕掛けもあるんだけど、どうやったか判らない。そんな気分。
主人公は探偵役としてそれなりに機能するが、読んでいてイライラするほど無気力でもある。ただし大勢登場する奇矯な登場人物たちの性格や言動は見ていて楽しい。あまり実のない各キャラクターの過去に対する仄めかしも、そこからいろいろ妄想するタイプの人間にとっては楽しい。こーゆー格闘ゲームのキャラ表から過去を想像するような遊びに慣れていない人には、単に読みづらいだけかもしれないけれど。
もう一つ感じたのが死の扱いの奇妙さ。上にも書いたが、生きている登場人物と死体をあまり区別していない。上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』をはじめて読んだ時の読後感とも似ている。ブギーポップは一人称の主人公が各章ごとに違うという手法もあって、次のページを繰ると誰が死んでいるかわからない、というスリルがあった。推理小説の手法としてこれを使うのはさすがに破格なのかもしれないが、人間の立場の入れ替わりを多用しているあたりなども含めよく似ている。僕は準主人公の玖渚友(くなぎさ・とも)に感情移入してしまったので*2、彼女がいつ死ぬのかとハラハラしてしまった。カバー裏に彼女の首だけを持つ主人公が描かれていたのもズルイ(笑)。
まあ、なんだかんだ言ってハマっているわけで、つぎの作品も図書館で借りてきた。以前なにかのインタビューで、西尾維新は日産60枚以上書けると答えていたのを読んだことがある。なにか制作上のメソッドがあるのだろう。そのへんも注意しながら読んでいこうと思う。
……ところでこのエントリーを書いていて気付いたんだけど、著者名の西尾維新ってローマ字書きしたら回文になるのな。NISIOISIN。“O”の真ん中を中心に点対称の図形にもなっている。なんつーかどこまでもペダンチックだ。

*1:それなりの量を読んだ推理小説って、栗本薫宮部みゆきくらい。海外推理はそれこそコナン・ドイルあたりで止まってるし。

*2:「さんくー」は良かった。