「NOVEL21 少年の時間 text.BLUE」徳間書店 デュアル文庫編集部編 ISBN:4199050345

NOVEL21 少年の時間―text.BLUE (徳間デュアル文庫)
2001年1月31日の刊行なのだが、おそらく初版のみで絶版になって久しい本書。Amazonマーケットプレイスに購入予約を出して三ヶ月で出品者があらわれた。税込み680円の本書を900円での出品だから、向こうも相場をわかっていらっしゃる。これまで書店の在庫や古本屋を見て回るたびに注意してたけど全然見つけられなかったものな〜。六人の作家による書下ろし短編集なのだけれど、目当ては上遠野浩平の「鉄仮面をめぐる論議」。同じデュアル文庫から出ている「ナイトウォッチ」シリーズのキーパーソンの一人。マイロー・スタースクレイパーの物語。うん、作者のキャラクターに対してちょっと引いたような語り口が、この短編では効果的に使われてる気がする。電撃hpで連載中の「ビートのディシプリン」は文体がぐだぐだになってるからな……。作中の「初子さん」も上遠野氏にしては珍しい萌えキャラなのではなかろうか。本の巻頭にの署名で、なぜ私たちは「面白いもの」を欲しがるのか? という短い文章が寄せられている。このレーベルを立ち上げた編集者の大野修一氏の手によるものだと思うのだけれど。少し長くなるが一部分を引用する。

面白い物語(エンタテインメント)は、現実逃避をうながします。しかし、的確な現実逃避――それこそが必要なんです。<だいたいこんなところ>となっているチープな現実にどう対応していったらいいのかは、けっこう重要な問題です。そのなかにどっぷりつかって願望充足タイプな快感にひたっていられるほどラッキーな時代は、あっという間に過ぎてしまいました。「期待」ではなく「希望」をもって、いったん現実から距離を置き、それから戻ってくる。リアルに対する予防接種の効能を、物語は持っているのです。

なんて力づけられる言葉。ライトノベルの編集ポリシーをこれほど明確に語っている文章をはじめて読んだ。こういうことを作家に語れる編集者は心強いですね。